とっ》さんが法律家だもんだから、証拠さえなければ文句を付けられる因縁《いんねん》がないと考えているようなもので……」
「父はそんな事をいった事なんぞありゃしません。私だってそう外部《うわべ》ばかり飾って生きてる人間じゃありません。貴夫が不断からそんな僻《ひが》んだ眼で他《ひと》を見ていらっしゃるから……」
 細君の瞼《まぶた》から涙がぽたぽた落ちた。いう事がその間に断絶した。島田に遣る百円の話しが、飛んだ方角へ外《そ》れた。そうして段々こんがらか[#「こんがらか」に傍点]って来た。

     九十九

 また二、三日して細君は久しぶりに外出した。
「無沙汰《ぶさた》見舞《みまい》かたがた少し歳暮に廻って来ました」
 乳呑児《ちのみご》を抱いたまま健三の前へ出た彼女は、寒い頬《ほお》を赤くして、暖かい空気の裡《なか》に尻《しり》を落付《おちつけ》た。
「御前の宅《うち》はどうだい」
「別に変った事もありません。ああなると心配を通り越して、かえって平気になるのかも知れませんね」
 健三は挨拶《あいさつ》の仕様もなかった。
「あの紫檀《したん》の机を買わないかっていうんですけれども、縁起が
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