っ》しゃればそれまでです」
「御前は人を理窟ぽいとか何とかいって攻撃するくせに、自分にゃ大変形式ばった所のある女だね」
「貴夫こそ形式が御好きなんです。何事にも理窟が先に立つんだから」
「理窟と形式とは違うさ」
「貴夫のは同なじですよ」
「じゃいって聞かせるがね、己は口にだけ論理《ロジック》を有《も》っている男じゃない。口にある論理は己の手にも足にも、身体《からだ》全体にもあるんだ」
「そんなら貴夫の理窟がそう空っぽうに見えるはずがないじゃありませんか」
「空っぽうじゃないんだもの。丁度ころ柿の粉《こ》のようなもので、理窟が中《うち》から白く吹き出すだけなんだ。外部《そと》から喰付《くっつ》けた砂糖とは違うさ」
 こんな説明が既に細君には空っぽうな理窟であった。何でも眼に見えるものを、しっかと手に掴《つか》まなくっては承知出来ない彼女は、この上夫と議論する事を好まなかった。またしようと思っても出来なかった。
「御前が形式張るというのはね。人間の内側はどうでも、外部《そと》へ出た所だけを捉《つら》まえさえすれば、それでその人間が、すぐ片付けられるものと思っているからさ。丁度御前の御父《お
前へ 次へ
全343ページ中328ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング