むしろ皮肉であった。
「元来一文も出さないといったって、貴方《あなた》の方じゃどうする事も出来ないんでしょう。百円で悪けりゃ御止《およ》しなさい」
 相手は漸《ようや》く懸引《かけひき》をやめた。
「じゃともかくも本人によくそう話して見ます。その上でまた上《あが》る事にしますから、どうぞ何分」
 その人が帰った後で健三は細君に向った。
「とうとう来た」
「どうしたっていうんです」
「また金を取られるんだ。人さえ来れば金を取られるに極《きま》ってるから厭だ」
「馬鹿らしい」
 細君は別に同情のある言葉を口へ出さなかった。
「だって仕方がないよ」
 健三の返事も簡単であった。彼は其所《そこ》へ落付くまでの筋道を委《くわ》しく細君に話してやるのさえ面倒だった。
「そりゃ貴夫《あなた》の御金を貴夫が御遣りになるんだから、私《わたくし》何もいう訳はありませんわ」
「金なんかあるもんか」
 健三は擲《たた》き付けるようにこういって、また書斎へ入った。其所には鉛筆で一面に汚《よご》された紙が所々赤く染ったまま机の上で彼を待っていた。彼はすぐ洋筆《ペン》を取り上げた。そうして既に汚れたものをなおさら赤
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