その子供が大きくなって、御前から離れて行く時期が来るに極《きま》っている。御前は己《おれ》と離れても、子供とさえ融け合って一つになっていれば、それで沢山だという気でいるらしいが、それは間違だ。今に見ろ」
 書斎に落付《おちつ》いた時、彼の感想がまた急に科学的色彩を帯び出した。
「芭蕉《ばしょう》に実が結《な》ると翌年《あくるとし》からその幹は枯れてしまう。竹も同じ事である。動物のうちには子を生むために生きているのか、死ぬために子を生むのか解らないものがいくらでもある。人間も緩漫ながらそれに準じた法則にやッぱり支配されている。母は一旦自分の所有するあらゆるものを犠牲にして子供に生を与えた以上、また余りのあらゆるものを犠牲にして、その生を守護しなければなるまい。彼女が天からそういう命令を受けてこの世に出たとするならば、その報酬として子供を独占するのは当り前だ。故意というよりも自然の現象だ」
 彼は母の立場をこう考え尽した後《あと》、父としての自分の立場をも考えた。そうしてそれが母の場合とどう違っているかに思い到《いた》った時、彼は心のうちでまた細君に向っていった。
「子供を有《も》った御前
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