はやむをえず彼に背中を向けた。そうして其所《そこ》に寐《ね》ている子供を見た。彼女は思い出したように、すぐその子供を抱き上げた。
 章魚《たこ》のようにぐにゃぐにゃしている肉の塊りと彼女との間には、理窟の壁も分別の牆《かき》もなかった。自分の触れるものが取も直さず自分のような気がした。彼女は温かい心を赤ん坊の上に吐き掛けるために、唇を着けて所嫌わず接吻《せっぷん》した。
「貴夫《あなた》が私《わたくし》のものでなくっても、この子は私の物よ」
 彼女の態度からこうした精神が明らかに読まれた。
 その赤ん坊はまだ眼鼻立《めはなだち》さえ判明《はっきり》していなかった。頭には何時まで待っても殆《ほと》んど毛らしい毛が生えて来なかった。公平な眼から見ると、どうしても一個の怪物であった。
「変な子が出来たものだなあ」
 健三は正直な所をいった。
「どこの子だって生れたては皆なこの通りです」
「まさかそうでもなかろう。もう少しは整ったのも生れるはずだ」
「今に御覧なさい」
 細君はさも自信のあるような事をいった。健三には何という見当も付かなかった。けれども彼は細君がこの赤ん坊のために夜中《やちゅう
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