でいまだに細君の父母にも細君にも了解されていなかった。
「役に立つばかりが能じゃない。その位の事が解らなくってどうするんだ」
 健三の言葉は勢い権柄《けんぺい》ずくであった。傷《きずつ》けられた細君の顔には不満の色がありありと見えた。
 機嫌の直った時細君はまた健三に向った。――
「そう頭からがみがみいわないで、もっと解るようにいって聞かして下すったら好《い》いでしょう」
「解るようにいおうとすれば、理窟ばかり捏《こ》ね返すっていうじゃないか」
「だからもっと解りやすいように。私に解らないような小六《こむ》ずかしい理窟はやめにして」
「それじゃどうしたって説明しようがない。数字を使わずに算術を遣れと注文するのと同じ事だ」
「だって貴夫の理窟は、他《ひと》を捻《ね》じ伏せるために用いられるとより外に考えようのない事があるんですもの」
「御前の頭が悪いからそう思うんだ」
「私の頭も悪いかも知れませんけれども、中味のない空っぽの理窟で捻じ伏せられるのは嫌《きらい》ですよ」
 二人はまた同じ輪の上をぐるぐる廻り始めた。

     九十三

 面と向って夫としっくり融け合う事の出来ない時、細君
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