までだ」
健三は海にも住めなかった。山にもいられなかった。両方から突き返されて、両方の間をまごまごしていた。同時に海のものも食い、時には山のものにも手を出した。
実父から見ても養父から見ても、彼は人間ではなかった。むしろ物品であった。ただ実父が我楽多《がらくた》として彼を取り扱ったのに対して、養父には今に何かの役に立てて遣ろうという目算があるだけであった。
「もうこっちへ引き取って、給仕《きゅうじ》でも何でもさせるからそう思うがいい」
健三が或日養家を訪問した時に、島田は何かのついでにこんな事をいった。健三は驚ろいて逃げ帰った。酷薄という感じが子供心に淡い恐ろしさを与えた。その時の彼は幾歳《いくつ》だったか能《よ》く覚えていないけれども、何でも長い間の修業をして立派な人間になって世間に出なければならないという慾が、もう充分|萌《きざ》している頃であった。
「給仕になんぞされては大変だ」
彼は心のうちで何遍も同じ言葉を繰り返した。幸《さいわい》にしてその言葉は徒労《むだ》に繰り返されなかった。彼はどうかこうか給仕にならずに済んだ。
「しかし今の自分はどうして出来上ったのだろう」
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