に伴なう彼の生気は、いくら抑え付けられても、下からむくむくと頭を擡《もた》げた。彼は遂に憂欝《ゆううつ》にならずに済んだ。
子供を沢山|有《も》っていた彼の父は、毫《ごう》も健三に依怙《かか》る気がなかった。今に世話になろうという下心のないのに、金を掛けるのは一銭でも惜しかった。繋《つな》がる親子の縁で仕方なしに引き取ったようなものの、飯を食わせる以外に、面倒を見て遣《や》るのは、ただ損になるだけであった。
その上肝心の本人は帰って来ても籍は復《もど》らなかった。いくら実家で丹精して育て上たにしたところで、いざという時に、また伴《つ》れて行かれればそれまでであった。
「食わすだけは仕方がないから食わして遣る。しかしその外の事はこっちじゃ構えない。先方《むこう》でするのが当然だ」
父の理窟はこうであった。
島田はまた島田で自分に都合の好《い》い方からばかり事件の成行《なりゆき》を観望していた。
「なに実家へ預けて置きさえすればどうにかするだろう。その内健三が一人前になって少しでも働らけるようになったら、その時|表沙汰《おもてざた》にしてでもこっちへ奪還《ふんだ》くってしまえばそれ
前へ
次へ
全343ページ中304ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング