最も馴《な》れた人であった。健三は黙ってその手際を見ていた。
「段々暮になるんでさぞ御忙がしいでしょう」
 彼は疎通《とおり》の好くなった烟管をぷっぷっと心持好さそうに吹きながらこういった。
「我々の家業は暮も正月もありません。年が年中同じ事です」
「そりゃ結構だ。大抵の人はそうは行きませんよ」
 島田がまだ何かいおうとしているうちに、奥で子供が泣き出した。
「おや赤ん坊のようですね」
「ええ、つい此間《こないだ》生れたばかりです」
「そりゃどうも。些《ちっ》とも知りませんでした。男ですか女ですか」
「女です」
「へええ、失礼だがこれで幾人《いくたり》目ですか」
 島田は色々な事を訊《き》いた。それに相当な受応《うけこたえ》をしている健三の胸にどんな考えが浮かんでいるかまるで気が付かなかった。
 出産率が殖えると死亡率も増すという統計上の議論を、つい四、五日前ある外国の雑誌で読んだ健三は、その時赤ん坊がどこかで一人生れれば、年寄が一人どこかで死ぬものだというような理窟とも空想とも付かない変な事を考えていた。
「つまり身代りに誰かが死ななければならないのだ」
 彼の観念は夢のようにぼんや
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