りしていた。詩として彼の頭をぼうっと侵すだけであった。それをもっと明瞭《めいりょう》になるまで理解の力で押し詰めて行けば、その身代りは取も直さず赤ん坊の母親に違なかった。次には赤ん坊の父親でもあった。けれども今の健三は其所《そこ》まで行く気はなかった。ただ自分の前にいる老人にだけ意味のある眼《まなこ》を注いだ。何のために生きているか殆《ほと》んど意義の認めようのないこの年寄は、身代りとして最も適当な人間に違なかった。
「どういう訳でこう丈夫なのだろう」
 健三は殆んど自分の想像の残酷さ加減さえ忘れてしまった。そうして人並でないわが健康状態については、毫《ごう》も責任がないものの如き忌々《いまいま》しさを感じた。その時島田は彼に向って突然こういった。――
「御縫《おぬい》もとうとう亡くなってね。御祝儀は済んだが」
 とても助からないという事だけは、脊髄病《せきずいびょう》という名前から推《お》して、とうに承知していたようなものの、改まってそういわれて見ると、健三も急に気の毒になった。
「そうですか。可愛想《かわいそう》に」
「なに病気が病気だからとても癒《なお》りっこないんです」
 島田
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