ろう。どんな未来の希望に支配されていただろう。彼らに取って睦《むつ》ましさの唯一の記念とも見るべきその金がどこかへ飛んで行ってしまった後《あと》、彼らは夢のような自分たちの過去を、果してどう眺めているだろう。
健三はもう少しで御常の話を島田にするところであった。しかし過去に無感覚な表情しか有《も》たない島田の顔は、何事も覚えていないように鈍かった。昔の憎悪《ぞうお》、古い愛執《あいしゅう》、そんなものは当時の金と共に彼の心から消え失せてしまったとしか思われなかった。
彼は腰から烟草入《タバコいれ》を出して、刻み烟草を雁首《がんくび》へ詰めた。吸殻《すいがら》を落すときには、左の掌《てのひら》で烟管《キセル》を受けて、火鉢《ひばち》の縁を敲《たた》かなかった。脂《やに》が溜《たま》っていると見えて、吸う時にじゅじゅ音がした。彼は無言で懐中《ふところ》を探った。それから健三の方を向いた。
「少し紙はありませんか、生憎《あいにく》烟管が詰って」
彼は健三から受取った半紙を割《さ》いて小撚《こより》を拵《こしら》えた。それで二返も三返も羅宇《ラウ》の中を掃除した。彼はこういう事をするのに
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