う喧嘩《けんか》もしないでしょう」
「落ち合わないからまだ仕合せなんだ。二人が一所の座敷で顔を見合せでもして見るがいい、それこそ堪《たま》らないや。一人ずつ相手にしているんでさえ沢山な所へ持って来て」
「今でもやっぱり喧嘩が始まるでしょうか」
「喧嘩はとにかく、己《おれ》の方が厭《いや》じゃないか」
「二人ともまだ知らないようね。片っ方が宅《うち》へ来る事を」
「どうだか」
 島田はかつて御常の事を口にしなかった。御常も健三の予期に反して、島田については何にも語らなかった。
「あの御婆さんの方がまだあの人より好《い》いでしょう」
「どうして」
「五円貰うと黙って帰って行くから」
 島田の請求慾の訪問ごとに増長するのに比べると、御常の態度は尋常に違なかった。

     八十九

 日ならず鼻の下の長い島田の顔がまた健三の座敷に現われた時、彼はすぐ御常の事を聯想《れんそう》した。
 彼らだって生れ付いての敵《かたき》同志でない以上、仲の好《い》い昔もあったに違ない。他《ひと》から爪《つめ》に灯《ひ》を点《とも》すようだといわれるのも構わずに、金ばかり溜《た》めた当時は、どんなに楽しかった
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