あなた》の紙入《かみいれ》に」
健三は床の間に釣り合わない大きな朱色の花瓶《はないけ》を買うのに四円いくらか払った。懸額《かけがく》を誂《あつ》らえるとき五円なにがしか取られた。指物師《さしものし》が百円に負けて置くから買わないかといった立派な紫檀《したん》の書棚をじろじろ見ながら、彼はその二十分の一にも足らない代価を大事そうに懐中から出して匠人《しょうにん》の手に渡した。彼はまたぴかぴかする一匹の伊勢崎銘仙《いせざきめいせん》を買うのに十円余りを費やした。友達から受取った原稿料がこう形を変えたあとに、手垢《てあか》の付いた五円札がたった一枚残ったのである。
「実はまだ買いたいものがあるんだがな」
「何を御買いになるつもりだったの」
健三は細君の前に特別な品物の名前を挙げる事が出来なかった。
「沢山あるんだ」
慾に際限のない彼の言葉は簡単であった。夫と懸け離れた好尚を有《も》っている細君は、それ以上追窮する面倒を省いた代りに、外の質問を彼に掛けた。
「あの御婆《おばあ》さんは御姉《おあねえ》さんなんぞよりよっぽど落ち付いているのね。あれじゃ島田って人と宅《うち》で落ち合っても、そ
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