も見当《みあた》らないらしかった。
「何しろ取高《とりだか》が少ないもんですから仕方が御座いません。もう少し稼《かせ》いでくれると好《い》いのですけれども」
彼女は自分の娘婿を捉《つら》まえて愚図だとも無能《やくざ》だともいわない代りに、毎月彼の労力が産み出す収入の高を健三の前に並べて見せた。あたかも物指《ものさし》で反物の寸法さえ計れば、縞柄《しまがら》だの地質だのは、まるで問題にならないといった風に。
生憎《あいにく》健三はそうした尺度で自分を計ってもらいたくない商売をしている男であった。彼は冷淡に彼女の不平を聞き流さなければならなかった。
八十八
好い加減な時分に彼は立って書斎に入った。机の上に載せてある紙入を取って、そっと中を改めると、一枚の五円札があった。彼はそれを手に握ったまま元の座敷へ帰って、御常の前へ置いた。
「失礼ですがこれで俥《くるま》へでも乗って行って下さい」
「そんな御心配を掛けては済みません。そういうつもりで上《あが》ったのでは御座いませんから」
彼女は辞退の言葉と共に紙幣を受け納めて懐《ふところ》へ入れた。
小遣を遣《や》る時の健三が
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