ゃくしゃ」に傍点]した。或時は他《ひと》が自分をこんなに弱くしてしまったのだというような気を起して、相手のないのに腹を立てた。
「年が若くって起居《たちい》に不自由さえなければ丈夫だと思うんだろう。門構《もんがまえ》の宅《うち》に住んで下女《げじょ》さえ使っていれば金でもあると考えるように」
 健三は黙って御常の顔を眺めていた。同時に彼は新らしく床《とこ》の間《ま》に飾られた花瓶《はないけ》とその後に懸っている懸額《かけがく》とを眺めた。近いうちに袖《そで》を通すべきぴかぴかする反物《たんもの》も彼の心のうちにあった。彼は何故《なぜ》この年寄に対して同情を起し得ないのだろうかと怪しんだ。
「ことによると己の方が不人情なのかも知れない」
 彼は姉の上に加えた評をもう一遍腹の中で繰り返した。そうして「何不人情でも構うものか」という答を得た。
 御常は自分の厄介になっている娘婿の事について色々な話をし始めた。世間一般によく見る通り、その人の手腕《うで》がすぐ彼女の問題になった。彼女の手腕というのは、つまり月々入る金の意味で、その金より外に人間の価値を定めるものは、彼女に取って、広い世界に一つ
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