ころもあった。
「酒でも飲むんじゃなかろうか」
こんな推察さえ彼の胸を横切った。
御常の肌身《はだみ》に着けているものは悉《ことご》とく古びていた。幾度《いくたび》水を潜《くぐ》ったか分らないその着物なり羽織《はおり》なりは、どこかに絹の光が残っているようで、また変にごつごつしていた。ただどんなに時代を食っても、綺麗《きれい》に洗張《あらいはり》が出来ている所に彼女の気性が見えるだけであった。健三は丸いながら如何《いか》にも窮屈そうなその人の姿を眺めて、彼女の生活状態と彼女の口に距離のない事を知った。
「どこを見ても困る人だらけで弱りますね」
「こちらなどが困っていらしっちゃあ、世の中に困らないものは一人も御座いません」
健三は弁解する気にさえならなかった。彼はすぐ考えた。
「この人は己《おれ》を自分より金持と思っているように、己を自分より丈夫だとも思っているのだろう」
近頃の健三は実際健康を損《そこ》なっていた。それを自覚しつつ彼は医者にも診《み》てもらわなかった。友達にも話さなかった。ただ一人で不愉快を忍んでいた。しかし身体の未来を想像するたんびに彼はむしゃくしゃ[#「むし
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