「死んだ方が好ければ何時でも死にます」
「それは御随意だ」
夫の言葉を笑談《じょうだん》半分に聴いていられるようになった細君は、自分の生命に対して鈍いながらも一種の危険を感じたその当時を顧みなければならなかった。
「実際|今度《こんだ》は死ぬと思ったんですもの」
「どういう訳で」
「訳はないわ、ただ思うのに」
死ぬと思ったのにかえって普通の人より軽い産をして、予想と事実が丁度裏表になった事さえ、細君は気に留めていなかった。
「御前は呑気《のんき》だね」
「貴夫《あなた》こそ呑気よ」
細君は嬉《うれ》しそうに自分の傍《そば》に寐《ね》ている赤ん坊の顔を見た。そうして指の先で小さい頬片《ほっぺた》を突《つっ》ついて、あやし始めた。その赤ん坊はまだ人間の体裁を具えた眼鼻《めはな》を有《も》っているとはいえないほど変な顔をしていた。
「産が軽いだけあって、少し小さ過ぎるようだね」
「今に大きくなりますよ」
健三はこの小さい肉の塊りが今の細君のように大きくなる未来を想像した。それは遠い先にあった。けれども中途で命の綱が切れない限り何時か来るに相違なかった。
「人間の運命はなかなか片付かな
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