った時、彼女は骨に応《こた》えるような恐ろしい力でいきなり健三の腕に獅噛《しが》み付いた。そうして拷問でもされる人のように唸《うな》った。彼は自分の細君が身体《からだ》の上に受けつつある苦痛を精神的に感じた。自分が罪人ではないかという気さえした。
「産をするのも苦しいだろうが、それを見ているのも辛いものだぜ」
「じゃどこかへ遊びにでもいらっしゃいな」
「一人で生めるかい」
細君は何とも答えなかった。夫が外国へ行っている留守に、次の娘を生んだ時の事などはまるで口にしなかった。健三も訊いて見ようとは思わなかった。生《うま》れ付《つき》心配性な彼は、細君の唸《うな》り声を余所《よそ》にして、ぶらぶら外を歩いていられるような男ではなかった。
産婆が次に顔を出した時、彼は念を押した。
「一週間以内かね」
「いえもう少し後《あと》でしょう」
健三も細君もその気でいた。
八十
日取が狂って予期より早く産気《さんけ》づいた細君は、苦しそうな声を出して、傍《そば》に寐《ね》ている夫の夢を驚ろかした。
「先刻《さっき》から急に御腹《おなか》が痛み出して……」
「もう出そうなのかい」
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