伏《うつぶせ》になって倒れている細君を抱き起して床の上まで連れて来た。真夜中に雨戸を一枚明けた縁側の端《はじ》に蹲踞《うずくま》っている彼女を、後《うしろ》から両手で支えて、寝室へ戻って来た経験もあった。
そんな時に限って、彼女の意識は何時でも朦朧《もうろう》として夢よりも分別がなかった。瞳孔《どうこう》が大きく開いていた。外界はただ幻影《まぼろし》のように映るらしかった。
枕辺《まくらべ》に坐《すわ》って彼女の顔を見詰めている健三の眼には何時でも不安が閃《ひら》めいた。時としては不憫《ふびん》の念が凡《すべ》てに打ち勝った。彼は能《よ》く気の毒な細君の乱れかかった髪に櫛《くし》を入れて遣《や》った。汗ばんだ額を濡《ぬ》れ手拭《てぬぐい》で拭《ふ》いて遣った。たまには気を確《たしか》にするために、顔へ霧を吹き掛けたり、口移しに水を飲ませたりした。
発作の今よりも劇《はげ》しかった昔の様も健三の記憶を刺戟《しげき》した。
或時の彼は毎夜細い紐《ひも》で自分の帯と細君の帯とを繋《つな》いで寐《ね》た。紐の長さを四尺ほどにして、寐返《ねがえ》りが充分出来るように工夫されたこの用意は、
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