るのが癪《しゃく》に障った。
彼の神経はこの肝癪《かんしゃく》を乗り超えた人に向って鋭どい懐しみを感じた。彼は群衆のうちにあって直《すぐ》そういう人を物色する事の出来る眼を有っていた。けれども彼自身はどうしてもその域に達せられなかった。だからなおそういう人が眼に着いた。またそういう人を余計尊敬したくなった。
同時に彼は自分を罵《ののし》った。しかし自分を罵らせるようにする相手をば更に烈《はげ》しく罵った。
かくして細君の父と彼との間には自然の造った溝渠《みぞ》が次第に出来上った。彼に対する細君の態度も暗《あん》にそれを手伝ったには相違なかった。
二人の間柄がすれすれになると、細君の心は段々生家《さと》の方へ傾いて行った。生家でも同情の結果、冥々《めいめい》の裡《うち》に細君の肩を持たなければならなくなった。しかし細君の肩を持つという事は、或場合において、健三を敵とするという意味に外ならなかった。二人は益《ますます》離れるだけであった。
幸にして自然は緩和剤としての歇私的里《ヒステリー》を細君に与えた。発作は都合好く二人の関係が緊張した間際に起った。健三は時々便所へ通う廊下に俯
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