は黙って何ともいわなかった。
 健三が外国から帰った当座の二人は、まだこれほどに離れていなかった。彼が新宅を構えて間もない頃、彼は細君の父がある鉱山事業に手を出したという話を聞いて驚ろいた事があった。
「山を掘るんだって?」
「ええ、何でも新らしく会社を拵《こしら》えるんだそうです」
 彼は眉《まゆ》を顰《ひそ》めた。同時に彼は父の怪力《かいりょく》に幾分かの信用を置いていた。
「旨《うま》く行くのかね」
「どうですか」
 健三と細君との間にこんな簡単な会話が取り換わされた後《のち》、彼はその用事を帯びて北国《ほっこく》のある都会へ向けて出発したという父の報知を細君から受け取った。すると一週間ばかりして彼女の母が突然健三の所へ遣《や》って来た。父が旅先で急に病気に罹《かか》ったので、これから自分も行かなければならないと思うが、それについて旅費の都合は出来まいかというのが母の用向《ようむき》であった。
「ええええ旅費位どうでもして上《あげ》ますから、すぐ行って御上なさい」
 宿屋に寐《ね》ている苦しい人と、汽車で立って行く寒い人とを心《しん》から気の毒に思った健三は、自分のまだ見た事もな
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