内状を打ち明けるほど彼に接近して来なかった。
従来の牆壁《しょうへき》を取り払うにはこの機会があまりに脆弱《ぜいじゃく》過ぎた。もしくは二人の性格があまりに固着し過ぎていた。
父は健三よりも世間的に虚栄心の強い男であった。なるべく自分を他《ひと》に能《よ》く了解させようと力《つと》めるよりも、出来るだけ自分の価値を明るい光線に触《あ》てさせたがる性質《たち》であった。従って彼を囲繞《いにょう》する妻子近親に対する彼の様子は幾分か誇大に傾むきがちであった。
境遇が急に失意の方面に一転した時、彼は自分の平生《へいぜい》を顧みない訳に行かなかった。彼はそれを糊塗《こと》するため、健三に向って能《あた》う限りさあらぬ態度を装った。それで遂に押し通せなくなった揚句、彼はとうとう健三に連印を求めたのである。けれども彼がどの位の負債にどう苦しめられているかという巨細《こさい》の事実は、遂に健三の耳に入《い》らなかった。健三も訊《き》かなかった。
二人は今までの距離を保ったままで互に手を出し合った。一人が渡す金を一人が受け取った時、二人は出した手をまた引き込めた。傍《はた》でそれを見ていた細君
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