けた。金などを有っていない友達は驚ろいた顔をして彼を見た。彼は火鉢に手を翳《かざ》しながら友達の前に逐一事情を話した。
「どうだろう」
 三年間支那のある学堂で教鞭《きょうべん》を取っていた頃に蓄えた友達の金は、みんな電鉄か何かの株に変形していた。
「じゃ清水《しみず》に頼んで見てくれないか」
 友達の妹婿に当る清水は、下町のかなり繁華な場所で、病院を開いていた。
「さあどうかなあ。あいつもその位な金はあるだろうが、動かせるようになっているかしら。まあ訊いて見てやろう」
 友達の好意は幸い徒労《むだ》にならずに済んだ。健三の借り受けた四百円の金が、細君の父の手に入ったのは、それから四、五日経って後《のち》の事であった。

     七十五

「己《おれ》は精一杯の事をしたのだ」
 健三の腹にはこういう安心があった。従って彼は自分の調達《ちょうだつ》した金の価値について余り考えなかった。さぞ嬉《うれ》しがるだろうとも思わない代りに、これ位の補助が何の役に立つものかという気も起さなかった。それがどの方面にどう消費されたかの問題になると、全くの無知識で澄ましていた。細君の父も其所《そこ》まで
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