私には心持が好いのですから、まずそっちの方を一つ中《あた》って見ましょう。無論|御入用《おいりよう》だけの額《たか》は駄目です。私の手で調のえる以上、私の手で返さなければならないのは無論の事ですから、身分不相当の借金は出来ません」
 いくらでも融通が付けば付いただけ助かるといった風の苦しい境遇に置かれた細君の父は、それより以上健三を強《し》いなかった。
「どうぞそれじゃ何分」
 彼は健三の着古した外套に身を包んで、寒い日の下を歩いて帰って行った。書斎で話を済せた健三は、玄関からまた同じ書斎に戻ったなり細君の顔を見なかった。細君も父を玄関に送り出した時、夫と並んで沓脱《くつぬぎ》の上に立っただけで、遂に書斎へは入って来なかった。金策の事は黙々のうちに二人に了解されていながら、遂に二人の間の話題に上《のぼ》らずにしまった。
 けれども健三の心には既に責任の荷があった。彼はそれを果すために動かなければならなかった。彼は世帯を持つときに、火鉢《ひばち》や烟草盆《タバコぼん》を一所に買って歩いてもらった友達の宅《うち》へまた出掛けた。
「金を貸してくれないかね」
 彼は藪《やぶ》から棒に質問を掛
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