七十三
中一日置いて彼が来た時、健三は久しぶりで細君の父に会った。
年輩からいっても、経歴から見ても、健三より遥かに世間馴れた父は、何時も自分の娘婿に対して鄭寧《ていねい》であった。或時は不自然に陥る位鄭寧過ぎた。しかしそれが彼を現わす凡《すべ》てではなかった。裏側には反対のものが所々に起伏していた。
官僚式に出来上った彼の眼には、健三の態度が最初から頗《すこぶ》る横着に見えた。超えてはならない階段を無躾《ぶしつけ》に飛び越すようにも思われた。その上彼はむやみに自《みずか》ら任じているらしい健三の高慢ちきな所を喜こばなかった。頭にある事を何でも口外して憚《はばか》らない健三の無作法も気に入らなかった。乱暴とより外に取りようのない一徹一図な点も非難の標的《まと》になった。
健三の稚気を軽蔑《けいべつ》した彼は、形式の心得もなく無茶苦茶に近付いて来《き》ようとする健三を表面上鄭寧な態度で遮った。すると二人は其所《そこ》で留まったなり動けなくなった。二人は或る間隔を置いて、相手の短所を眺めなければならなかった。だから相手の長所も判明《はっきり》と理解する事が出来|悪《に
前へ
次へ
全343ページ中243ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング