怪力《かいりょく》を眺めた。しかし千円|拵《こしら》えて預ける見込の到底付かない彼は、細君の父に向ってその方法を訊《き》く気にもならずについ今日《こんにち》まで過ぎたのである。
「そんなに貧乏するはずがないだろうじゃないか。何ぼ何だって」
「でも仕方がありませんわ、廻《まわ》り合《あわ》せだから」
産という肉体の苦痛を眼前に控えている細君の気息遣《いきづかい》はただでさえ重々《おもおも》しかった。健三は黙って気の毒そうなその腹と光沢《つや》の悪いその頬《ほお》とを眺めた。
昔し田舎で結婚した時、彼女の父がどこからか浮世絵風の美人を描《か》いた下等な団扇《うちわ》を四、五本買って持って来たので、健三はその一本をぐるぐる廻しながら、随分俗なものだと評したら、父はすぐ「所相応だろう」と答えた事があったが、健三は今自分がその地方で作った外套を細君の父に遣って、「阿爺《おやじ》相応だろう」という気にはとてもなれなかった。いくら困ったってあんなものをと思うとむしろ情《なさけ》なくなった。
「でもよく着られるね」
「見っともなくっても寒いよりは好いでしょう」
細君は淋《さび》しそうに笑った。
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