二人が衝突する大根《おおね》は此所《ここ》にあった。
 夫と独立した自己の存在を主張しようとする細君を見ると健三はすぐ不快を感じた。ややともすると、「女のくせに」という気になった。それが一段|劇《はげ》しくなると忽《たちま》ち「何を生意気な」という言葉に変化した。細君の腹には「いくら女だって」という挨拶《あいさつ》が何時でも貯《たくわ》えてあった。
「いくら女だって、そう踏み付にされて堪《たま》るものか」
 健三は時として細君の顔に出るこれだけの表情を明かに読んだ。
「女だから馬鹿にするのではない。馬鹿だから馬鹿にするのだ、尊敬されたければ尊敬されるだけの人格を拵《こしら》えるがいい」
 健三の論理《ロジック》は何時の間にか、細君が彼に向って投げる論理《ロジック》と同じものになってしまった。
 彼らはかくして円《まる》い輪の上をぐるぐる廻って歩いた。そうしていくら疲れても気が付かなかった。
 健三はその輪の上にはたりと立ち留《どま》る事があった。彼の留る時は彼の激昂《げっこう》が静まる時に外ならなかった。細君はその輪の上でふと動かなくなる事があった。しかし細君の動かなくなる時は彼女の
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