ものが夢のように悉く消え失せていた。残っているのはただ大地ばかりであった。
「何時こんなに変ったんだろう」
 人間の変って行く事にのみ気を取られていた健三は、それよりも一層|劇《はげ》しい自然の変り方に驚ろかされた。
 彼は子供の時分|比田《ひだ》と将棋を差した事を偶然思いだした。比田は盤に向うと、これでも所沢《ところざわ》の藤吉《とうきち》さんの御弟子だからなというのが癖であった。今の比田も将棋盤を前に置けば、きっと同じ事をいいそうな男であった。
「己《おれ》自身は必竟《ひっきょう》どうなるのだろう」
 衰ろえるだけで案外変らない人間のさまと、変るけれども日に栄えて行く郊外の様子とが、健三に思いがけない対照の材料を与えた時、彼は考えない訳に行かなかった。

     七十

 元気のない顔をして宅《うち》へ帰って来た彼の様子がすぐ細君の注意を惹《ひ》いた。
「御病人はどうなの」
 あるゆる人間が何時か一度は到着しなければならない最後の運命を、彼女は健三の口から判然《はっきり》聞こうとするように見えた。健三は答を与える先に、まず一種の矛盾を意識した。
「何もう好《い》いんだ。寐《ね》て
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