はいるが危篤《きとく》でも何でもないんだ。まあ兄貴に騙《だま》されたようなものだね」
 馬鹿らしいという気が幾分か彼の口振《くちぶり》に出た。
「騙されてもその方がいくら好いか知れやしませんわ、貴夫《あなた》。もしもの事でもあって御覧なさい、それこそ……」
「兄貴が悪いんじゃない。兄貴は姉に騙されたんだから。その姉はまた病気に騙されたんだ。つまり皆な騙されているようなものさ、世の中は。一番利口なのは比田かも知れないよ。いくら女房が煩らったって、決して騙されないんだからね」
「やっぱり宅にいないの」
「いるもんか。尤《もっと》も非道《ひど》く悪かった時はどうだか知らないが」
 健三は比田の振下《ぶらさ》げている金時計と金鎖の事を思い出した。兄はそれを天麩羅《てんぷら》だろうといって陰で評していたが、当人はどこまでも本物らしく見せびらかしたがった。金着《きんき》せにせよ、本物にせよ、彼がどこでいくらで買ったのか知るものは誰もなかった。こういう点に掛けては無頓着《むとんじゃく》でいられない性分の姉も、ただ好い加減にその出処を推察するに過ぎなかった。
「月賦で買ったに違ないよ」
「ことによると
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