それに彼女は縫針《ぬいはり》の道を心得ていなかった。手習《てならい》をさせても遊芸を仕込んでも何一つ覚える事の出来なかった彼女は、嫁に来てから今日《こんにち》まで、ついぞ夫の着物一枚縫った例《ためし》がなかった。それでいて彼女は人一倍勝気な女であった。子供の時分強情を張った罰として土蔵の中に押し込められた時、小用《こよう》に行きたいから是非出してくれ、もし出さなければ倉の中で用を足すが好いかといって、網戸の内外《うちそと》で母と論判をした話はいまだに健三の耳に残っていた。
 そう思うと自分とは大変懸け隔ったようでいて、その実どこか似通った所のあるこの腹違《はらちがい》の姉の前に、彼は反省を強《し》いられた。
「姉はただ露骨なだけなんだ。教育の皮を剥《む》けば己《おれ》だって大した変りはないんだ」
 平生《へいぜい》の彼は教育の力を信じ過ぎていた。今の彼はその教育の力でどうする事も出来ない野生的な自分の存在を明らかに認めた。かく事実の上において突然人間を平等に視《み》た彼は、不断から軽蔑《けいべつ》していた姉に対して多少|極《きま》りの悪い思をしなければならなかった。しかし姉は何にも気が
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