「ああ、でも御蔭さまでね。――姉さんなんざあ、生きていたってどうせ他《ひと》の厄介になるばかりで何の役にも立たないんだから、好い加減な時分に死ぬと丁度好いんだけれども、やっぱり持って生れた寿命だと見えてこればかりは仕方がない」
 姉は自分のいう裏を健三から聴きたい様子であった。しかし彼は黙って烟草《タバコ》を吹かしていた。こんな些細《ささい》の点にも姉弟《きょうだい》の気風の相違は現われた。
「でも比田のいるうちは、いくら病身でも無能《やくざ》でも私《あたし》が生きていて遣《や》らないと困るからね」
 親類は亭主孝行という名で姉を評し合っていた。それは女房の心尽しなどに対して余りに無頓着《むとんじゃく》過ぎる比田を一方に置いてこの姉の態度を見ると、むしろ気の毒な位親切だったからである。
「私《あたし》ゃ本当に損な生れ付でね。良人《うち》とはまるであべこべ[#「あべこべ」に傍点]なんだから」
 姉の夫思いは全く天性に違なかった。けれども比田が時として理の徹《とお》らない我儘《わがまま》をいい募るように、彼女は訳の解らない実意立《じついだて》をしてかえって夫を厭《いや》がらせる事があった。
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