参れませんよ」
「無論御前は行かなくっても好い。己が行くから」
六十七
その頃の健三は宅《うち》へ帰ると甚しい倦怠《けんたい》を感じた。ただ仕事をした結果とばかりは考えられないこの疲労が、一層彼を出不精にした。彼はよく昼寐《ひるね》をした。机に倚《よ》って書物を眼の前に開けている時ですら、睡魔に襲われる事がしばしばあった。愕然《がくぜん》として仮寐《うたたね》の夢から覚めた時、失われた時間を取り返さなければならないという感じが一層強く彼を刺撃《しげき》した。彼は遂に机の前を離れる事が出来なくなった。括《くく》り付けられた人のように書斎に凝《じっ》としていた。彼の良心はいくら勉強が出来なくっても、いくら愚図々々していても、そういう風に凝と坐《すわ》っていろと彼に命令するのである。
かくして四、五日は徒《いたず》らに過ぎた。健三が漸《ようや》く津《つ》の守坂《かみざか》へ出掛けた時は六《む》ずかしいかも知れないといった姉が、もう回復期に向っていた。
「まあ結構です」
彼は尋常の挨拶《あいさつ》をした。けれども腹の中では狐《きつね》にでも抓《つま》まれたような気がした。
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