付かなかった。
「御住《おすみ》さんはどうです。もう直《じき》生れるんだろう」
「ええ落《おっ》こちそうな腹をして苦しがっています」
「御産は苦しいもんだからね。私《あたし》も覚があるが」
 久しく不妊性と思われていた姉は、片付いて何年目かになって始めて一人の男の子を生んだ。年歯《とし》を取ってからの初産《ういざん》だったので、当人も傍《はた》のものも大分《だいぶ》心配した割に、それほどの危険もなく胎児を分娩《ぶんべん》したが、その子はすぐ死んでしまった。
「軽はずみをしないように用心おしよ。――宅でも彼子《あれ》がいると少しは依怙《たより》になるんだがね」

     六十八

 姉の言葉には昔し亡くしたわが子に対する思い出の外に、今の養子に飽き足らない意味も含まれていた。
「彦ちゃんがもう少し確乎《しっかり》していてくれると好《い》いんだけれども」
 彼女は時々傍《はた》のものにこんな述懐を洩《も》らした。彦ちゃんは彼女の予期するような大した働き手でないにせよ、至極《しごく》穏やかな好人物であった。朝っぱらから酒を飲まなくっちゃいられない人だという噂《うわさ》を耳にした事はあるが、
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