さか」
細君は取り合わなかった。彼女はただ自分の大きな腹を持て余してばかりいた。生家《さと》と縁故のある産婆が、遠い所から俥《くるま》に乗って時々遣《やっ》て来た。彼はその産婆が何をしに来て、また何をして帰って行くのか全く知らなかった。
「腹でも揉《も》むのかい」
「まあそうです」
細君ははかばかしい返事さえしなかった。
その内兄の熱がころりと除《と》れた。
「御祈祷《ごきとう》をなすったんですって」
迷信家の細君は加持《かじ》、祈祷、占い、神信心《かみしんじん》、大抵の事を好いていた。
「御前が勧めたんだろう」
「いいえそれが私《わたくし》なんぞの知らない妙な御祈祷なのよ。何でも髪剃《かみそり》を頭の上へ載せて遣るんですって」
健三には髪剃の御蔭で、しこじら[#「しこじら」に傍点]した体熱が除れようとも思えなかった。
「気のせいで熱が出るんだから、気のせいでそれがまた直《すぐ》除れるんだろうよ。髪剃でなくったって、杓子《しゃくし》でも鍋蓋《なべぶた》でも同じ事さ」
「しかしいくら御医者の薬を飲んでも癒《なお》らないもんだから、試しに遣って見たらどうだろうって勧められて、とう
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