。だいち身上持《しんしょうもち》が好《い》いからな」
島田の家庭に風波の起った時、彼女はあるだけの言葉を父の前に並べ立てた。そうしてその言葉の上にまた悲しい涙と口惜《くや》しい涙とを多量に振り掛けた。父は全く感動した。すぐ彼女の味方になってしまった。
御世辞が上手だという点において健三の父は彼の姉をも大変|可愛《かあい》がっていた。無心に来られるたんびに、「そうそうは己《おれ》だって困るよ」とか何とかいいながら、いつか入用《いりよう》だけの金子《きんす》は手文庫から取出されていた。
「比田はあんな奴だが、御夏が可愛想《かわいそう》だから」
姉の帰った後で、父は何時でも弁解らしい言葉を傍《はた》のものに聞こえるようにいった。
しかしこれほど父を自由にした姉の口先は、御常に比べると遥かに下手《へた》であった。真《まこと》しやかという点において遠く及ばなかった。実際十六、七になった時の健三は、彼女と接触した自分以外のもので、果してその性格を見抜いたものが何人あるだろうかと、一時疑って見た位、彼女の口は旨《うま》かった。
彼女に会うときの健三が、心中迷惑を感じたのは大部分この口にあっ
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