では御爺《おじい》さんだけだったのが、御爺さんと御婆さんと二人になったのね。これからは二人《ふたあり》に崇《たた》られるんですよ、貴夫《あなた》は」
 細君の言葉は珍らしく乾燥《はしゃ》いでいた。笑談《じょうだん》とも付かず、冷評《ひやかし》とも付かないその態度が、感想に沈んだ健三の気分を不快に刺戟《しげき》した。彼は何とも答えなかった。
「またあの事をいったでしょう」
 細君は同じ調子で健三に訊《き》いた。
「あの事た何だい」
「貴夫が小さいうち寐小便《ねしょうべん》をして、あの御婆さんを困らしたって事よ」
 健三は苦笑さえしなかった。
 けれども彼の腹の中には、御常が何故《なぜ》それをいわなかったかの疑問が既に横《よこた》わっていた。彼女の名前を聞いた刹那《せつな》の健三は、すぐその弁口に思い到《いた》った位、御常は能《よ》く喋舌《しゃべ》る女であった。ことに自分を護《まも》る事に巧みな技倆《ぎりょう》を有《も》っていた。他《ひと》の口車に乗せられやすい、また見え透いた御世辞《おせじ》を嬉《うれ》しがりがちな健三の実父は、何時でも彼女を賞《ほ》める事を忘れなかった。
「感心な女だよ
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