て眺めなければならなかった。ハイカラな彼はアイロニーのために手非道《てひど》く打ち据えられた。彼の唇は苦笑する勇気さえ有《も》たなかった。
その内彼の荷物が着いた。細君に指輪一つ買って来なかった彼の荷物は、書籍だけであった。狭苦しい隠居所のなかで、彼はその箱の蓋《ふた》さえ開ける事の出来ないのを馬鹿らしく思った。彼は新らしい家を探し始めた。同時に金の工面もしなければならなかった。
彼は唯一の手段として、今まで継続して来た自分の職を辞した。彼はその行為に伴なって起る必然な結果として、一時《いちじ》賜金《しきん》を受取る事が出来た。一年勤めれば役をやめた時に月給の半額をくれるという規定に従って彼の手に入ったその金額は、無論大したものではなかった。けれども彼はそれで漸《やっ》と日常生活に必要な家具家財を調《ととの》えた。
彼は僅《わずか》ばかりの金を懐にして、或る古い友達と一所に方々の道具屋などを見て歩いた。その友達がまた品物の如何《いかん》にかかわらずむやみに価切《ねぎ》り倒す癖を有っているので、彼はただ歩くために少なからぬ時間を費やさされた。茶盆、烟草盆《タバコぼん》、火鉢《ひばち
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