ならなかった。
遠い所でこの変化を聴いた健三は、同情に充ちた眼を故郷の空に向けた。けれども細君の父の経済状態に関しては別に顧慮する必要のないものとして、殆《ほと》んど心を悩ませなかった。
迂闊《うかつ》な彼は帰ってからも其所《そこ》に注意を払わなかった。また気も付かなかった。彼は細君が月々貰《もら》う二十円だけでも子供二人に下女《げじょ》を使って充分|遣《や》って行ける位に考えていた。
「何しろ家賃が出ないんだから」
こんな呑気《のんき》な想像が、実際を見た彼の眼を驚愕《おどろき》で丸くさせた。細君は夫の留守中に自分の不断着をことごとく着切ってしまった。仕方がないので、しまいには健三の置いて行った地味《じみ》な男物を縫い直して身に纏《まと》った。同時に蒲団《ふとん》からは綿が出た。夜具は裂けた。それでも傍《そば》に見ている父はどうして遣る訳にも行かなかった。彼は自分の位地を失った後《あと》、相場に手を出して、多くもない貯蓄を悉《ことごと》く亡くしてしまったのである。
首の回らないほど高い襟《カラ》を掛けて外国から帰って来た健三は、この惨澹《みじめ》な境遇に置かれたわが妻子を黙っ
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