》、丼鉢《どんぶりばち》、眼に入《い》るものはいくらでもあったが、買えるのは滅多に出て来なかった。これだけに負けて置けと命令するようにいって、もし主人がその通りにしないと、友達は健三を店先に残したまま、さっさと先へ歩いて行った。健三も仕方なしに後を追懸《おっかけ》なければならなかった。たまに愚図々々していると、彼は大きな声を出して遠くから健三を呼んだ。彼は親切な男であった。同時に自分の物を買うのか他《ひと》の物を買うのか、その区別を弁《わきま》えていないように猛烈な男であった。

     五十九

 健三はまた日常使用する家具の外に、本棚だの机だのを新調しなければならなかった。彼は洋風の指物《さしもの》を渡世《とせい》にする男の店先に立って、しきりに算盤《そろばん》を弾《はじ》く主人と談判をした。
 彼の誂《あつら》えた本棚には硝子戸《ガラスど》も後部《うしろ》も着いていなかった。塵埃《ほこり》の積る位は懐中に余裕のない彼の意とする所ではなかった。木がよく枯れていないので、重い洋書を載せると、棚板が気の引けるほど撓《しな》った。
 こんな粗末な道具ばかりを揃えるのにさえ彼は少からぬ時
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