もその方に使う時間を惜がる男であった。卒業したてに、悉《ことごと》く他《ほか》の口を断って、ただ一つの学校から四十円|貰《もら》って、それで満足していた。彼はその四十円の半分を阿爺《おやじ》に取られた。残る二十円で、古い寺の座敷を借りて、芋や油揚《あぶらげ》ばかり食っていた。しかし彼はその間に遂に何事も仕出かさなかった。
 その時分の彼と今の彼とは色々な点において大分《だいぶ》変っていた。けれども経済に余裕《ゆとり》のないのと、遂に何事も仕出かさないのとは、どこまで行っても変りがなさそうに見えた。
 彼は金持になるか、偉くなるか、二つのうちどっちかに中途半端な自分を片付けたくなった。しかし今から金持になるのは迂闊《うかつ》な彼に取ってもう遅かった。偉くなろうとすればまた色々な塵労《わずらい》が邪魔をした。その塵労の種をよくよく調べて見ると、やっぱり金のないのが大源因になっていた。どうして好《い》いか解らない彼はしきりに焦《じ》れた。金の力で支配出来ない真に偉大なものが彼の眼に這入《はい》って来るにはまだ大分|間《ま》があった。

     五十八

 健三は外国から帰って来た時、既に金
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