心の裡《うち》で読み上げた。
「己《おれ》が悪いのじゃない。己の悪くない事は、仮令《たとい》あの男に解っていなくっても、己には能《よ》く解っている」
 無信心な彼はどうしても、「神には能く解っている」という事が出来なかった。もしそういい得たならばどんなに仕合せだろうという気さえ起らなかった。彼の道徳は何時でも自己に始まった。そうして自己に終るぎりであった。
 彼は時々金の事を考えた。何故《なぜ》物質的の富を目標《めやす》として今日《こんにち》まで働いて来なかったのだろうと疑う日もあった。
「己だって、専門にその方ばかり遣《や》りゃ」
 彼の心にはこんな己惚《おのぼれ》もあった。
 彼はけち臭い自分の生活状態を馬鹿らしく感じた。自分より貧乏な親類の、自分より切り詰めた暮し向に悩んでいるのを気の毒に思った。極めて低級な慾望で、朝から晩まで齷齪《あくせく》しているような島田をさえ憐れに眺めた。
「みんな金が欲しいのだ。そうして金より外には何にも欲しくないのだ」
 こう考えて見ると、自分が今まで何をして来たのか解らなくなった。
 彼は元来|儲《もう》ける事の下手《へた》な男であった。儲けられて
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