て、十や二十の金の出来ないはずはない」
 彼はこんな事まで口へ出していった。
 彼が帰ると、健三は厭な顔をして細君に向った。
「ありゃ成し崩しに己《おれ》を侵蝕《しんしょく》する気なんだね。始め一度に攻め落そうとして断られたもんだから、今度は遠巻にしてじりじり寄って来《き》ようってんだ。実に厭な奴だ」
 健三は腹が立ちさえすれば、よく実に[#「実に」に傍点]とか一番[#「一番」に傍点]とか大[#「大」に傍点]とかいう最大級を使って欝憤《うっぷん》の一端を洩《も》らしたがる男であった。こんな点になると細君の方はしぶとい代りに大分《だいぶ》落付《おちつ》いていた。
「貴夫《あなた》が引っ掛るから悪いのよ。だから始めから用心して寄せ付けないようになされば好いのに」
 健三はその位の事なら最初から心得ているといわぬばかりの様子を、むっとした頬《ほお》と唇とに見せた。
「絶交しようと思えば何時だって出来るさ」
「しかし今まで付合っただけが損になるじゃありませんか」
「そりゃ何の関係もない御前から見ればそうさ。しかし己は御前とは違うんだ」
 細君には健三の意味が能《よ》く通じなかった。
「どうせ貴
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