は》め込んだ硝子《ガラス》に中《あた》ってその一部分を摧《くだ》いて向う側の縁《えん》に落ちた。細君は茫然《ぼうぜん》として夢でも見ている人のように一口も物をいわなかった。
 彼女は本当に情に逼《せま》って刃物三昧《はものざんまい》をする気なのだろうか、または病気の発作に自己の意志を捧げべく余儀なくされた結果、無我夢中で切れものを弄《もてあ》そぶのだろうか、あるいは単に夫に打ち勝とうとする女の策略からこうして人を驚かすのだろうか、驚ろかすにしてもその真意は果してどこにあるのだろうか。自分に対する夫を平和で親切な人に立ち返らせるつもりなのだろうか、またはただ浅墓な征服慾に駆られているのだろうか、――健三は床の中で一つの出来事を五条《いつすじ》にも六条《むすじ》にも解釈した。そうして時々眠れない眼をそっと細君の方に向けてその動静をうかがった。寐ているとも起きているとも付かない細君は、まるで動かなかった。あたかも死を衒《てら》う人のようであった。健三はまた枕の上でまた自分の問題の解決に立ち帰った。
 その解決は彼の実生活を支配する上において、学校の講義よりも遥かに大切であった。彼の細君に対す
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