る基調は、全《まったく》その解決一つでちゃんと定められなければならなかった。今よりずっと単純であった昔、彼は一図に細君の不可思議な挙動を、病のためとのみ信じ切っていた。その時代には発作の起るたびに、神の前に己《おの》れを懺悔《ざんげ》する人の誠を以て、彼は細君の膝下《しっか》に跪《ひざま》ずいた。彼はそれを夫として最も親切でまた最も高尚な処置と信じていた。
「今だってその源因が判然《はっきり》分りさえすれば」
 彼にはこういう慈愛の心が充ち満ちていた。けれども不幸にしてその源因は昔のように単純には見えなかった。彼はいくらでも考えなければならなかった。到底解決の付かない問題に疲れて、とろとろと眠るとまたすぐ起きて講義をしに出掛けなければならなかった。彼は昨夕《ゆうべ》の事について、ついに一言《ひとこと》も細君に口を利く機会を得なかった。細君も日の出と共にそれを忘れてしまったような顔をしていた。

     五十五

 こういう不愉快な場面の後《あと》には大抵仲裁者としての自然が二人の間に這入《はい》って来た。二人は何時となく普通夫婦の利くような口を利き出した。
 けれども或時の自然は全く
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