ん》になさると、また歇私的里《ヒステリー》を起しますよ」
 細君の眼からは時々こんな光が出た。どういうものか健三は非道《ひど》くその光を怖れた。同時に劇《はげ》しくそれを悪《にく》んだ。我慢な彼は内心に無事を祈りながら、外部《うわべ》では強《し》いて勝手にしろという風を装った。その強硬な態度のどこかに何時でも仮装に近い弱点があるのを細君は能《よ》く承知していた。
「どうせ御産で死んでしまうんだから構やしない」
 彼女は健三に聞えよがしに呟《つぶ》やいた。健三は死んじまえといいたくなった。
 或晩彼はふと眼を覚まして、大きな眼を開いて天井を見詰ている細君を見た。彼女の手には彼が西洋から持って帰った髪剃《かみそり》があった。彼女が黒檀《エボニー》の鞘《さや》に折り込まれたその刃を真直《まっすぐ》に立てずに、ただ黒い柄《え》だけを握っていたので、寒い光は彼の視覚を襲わずに済んだ。それでも彼はぎょっとした。半身を床の上に起して、いきなり細君の手から髪剃を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《も》ぎ取った。
「馬鹿な真似をするな」
 こういうと同時に、彼は髪剃を投げた。髪剃は障子に篏《
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