不快そうに寐《ね》ている彼女の体《てい》たらくが癪《しゃく》に障って堪らなくなった。枕元に突っ立ったまま、わざと樫貪《けんどん》に要《い》らざる用を命じて見たりした。
 細君も動かなかった。大きな腹を畳へ着けたなり打つとも蹴《け》るとも勝手にしろという態度をとった。平生《へいぜい》からあまり口数を利かない彼女は益《ますます》沈黙を守って、それが夫の気を焦立《いらだ》たせるのを目の前に見ながら澄ましていた。
「つまりしぶといのだ」
 健三の胸にはこんな言葉が細君の凡《すべ》ての特色ででもあるかのように深く刻み付けられた。彼は外《ほか》の事をまるで忘れてしまわなければならなかった。しぶとい[#「しぶとい」に傍点]という観念だけがあらゆる注意の焦点になって来た。彼はよそを真闇《まっくら》にして置いて、出来るだけ強烈な憎悪の光をこの四字の上に投げ懸けた。細君はまた魚か蛇のように黙ってその憎悪を受取った。従って人目には、細君が何時でも品格のある女として映る代りに、夫はどうしても気違染《きちがいじ》みた癇癪持《かんしゃくもち》として評価されなければならなかった。
「貴夫《あなた》がそう邪慳《じゃけ
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