時として相手にさせられなければ済まなかった。
「何故《なぜ》だい」
「何故だかそう思われて仕方がないんですもの」
質問も説明もこれ以上には上《のぼ》る事の出来なかった言葉のうちに、ぼんやりした或ものが常に潜んでいた。その或ものは単純な言葉を伝わって、言葉の届かない遠い所へ消えて行った。鈴《りん》の音《ね》が鼓膜の及ばない幽《かす》かな世界に潜り込むように。
彼女は悪阻《つわり》で死んだ健三の兄の細君の事を思い出した。そうして自分が長女を生む時に同じ病で苦しんだ昔と照し合せて見たりした。もう二、三日食物が通らなければ滋養|灌腸《かんちょう》をするはずだった際どいところを、よく通り抜けたものだなどと考えると、生きている方がかえって偶然のような気がした。
「女は詰らないものね」
「それが女の義務なんだから仕方がない」
健三の返事は世間並であった。けれども彼自身の頭で批判すると、全くの出鱈目《でたらめ》に過ぎなかった。彼は腹の中で苦笑した。
五十四
健三の気分にも上《あが》り下《さが》りがあった。出任せにもせよ細君の心を休めるような事ばかりはいっていなかった。時によると、
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