な者。もともと恐ろしい事なんかないんだから」
「恐ろしいって誰もいやしませんわ。けれども面倒臭《めんどくさ》いにゃ違いないでしょう、いくら貴夫《あなた》だって」
「世の中にはただ面倒臭い位な単純な理由でやめる事の出来ないものがいくらでもあるさ」
多少片意地の分子を含んでいるこんな会話を細君と取り換わせた健三は、その次島田の来た時、例《いつも》よりは忙がしい頭を抱えているにもかかわらず、ついに面会を拒絶する訳に行かなかった。
島田のちと話したい事があるといったのは、細君の推察通りやっぱり金の問題であった。隙《すき》があったら飛び込もうとして、この間から覘《ねらい》を付けていた彼は、何時まで待っても際限がないとでも思ったものか、機会のあるなしに頓着《とんじゃく》なく、ついに健三に肉薄《にくはく》し始めた。
「どうも少し困るので。外にどこといって頼みに行く所もない私《わたし》なんだから、是非一つ」
老人の言葉のどこかには、義務として承知してもらわなくっちゃ困るといった風の横着さが潜んでいた。しかしそれは健三の神経を自尊心の一角において傷《いた》め付けるほど強くも現われていなかった。
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