も御邪魔をしました。御忙がしいところを。いずれまたその内」
 細君の病気については何事もいわなかった彼は、沓脱《くつぬぎ》へ下りてからまた健三の方を振り向いた。
「夜分なら大抵御暇ですか」
 健三は生返事をしたなり立っていた。
「実は少し御話ししたい事があるんですが」
 健三は何の御用ですかとも聞き返さなかった。老人は健三の手に持った暗い灯影《ひかげ》から、鈍い眼を光らしてまた彼を見上げた。その眼にはやっぱりどこかに隙があったら彼の懐に潜《もぐ》り込もうという人の悪い厭《いや》な色か動いていた。
「じゃ御免」
 最後に格子《こうし》を開けて外へ出た島田はこういってとうとう暗がりに消えた。健三の門には軒燈さえ点《つ》いていなかった。

     五十

 健三はすぐ奥へ来て細君の枕元に立った。
「どうかしたのか」
 細君は眼を開けて天井を見た。健三は蒲団《ふとん》の横からまたその眼を見下《みおろ》した。
 襖《ふすま》の影に置かれた洋燈《ランプ》の灯《ひ》は客間のよりも暗かった。細君の眸《ひとみ》がどこに向って注がれているのか能《よ》く分らない位暗かった。
「どうかしたのか」
 健三は同
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