です」
島田はまだ細君の顔を見た事がなかった。何時どこから嫁に来た女かさえ知らないらしかった。従って彼の言葉にはただ挨拶《あいさつ》があるだけであった。健三もこの人から自分の妻に対する同情を求めようとは思っていなかった。
「近頃は時候が悪いから、能《よ》く気を付けないといけませんね」
子供は疾《と》うに寐付《ねつ》いた後《あと》なので奥は寂《しん》としていた。下女《げじょ》は一番懸け離れた台所の傍《そば》の三畳にいるらしかった。こんな時に細君をたった一人で置くのが健三には何より苦しかった。彼は手を叩《たた》いて下女を呼んだ。
「ちょっと奥へ行って奥さんの傍に坐《すわ》っててくれ」
「へええ」
下女は何のためだか解らないといった様子をして間の襖《ふすま》を締めた。健三はまた島田の方を向き直った。けれども彼の注意はむしろ老人を離れていた。腹の中で早く帰ってくれれば好《い》いと思うので、その腹が言葉にも態度にもありありと現れた。
それでも島田は容易に立たなかった。話の接穂《つぎほ》がなくなって、手持|無沙汰《ぶさた》で仕方なくなった時、始めて座蒲団《ざぶとん》から滑り落ちた。
「どう
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